「雪、か? まさか……」

黒い夜空に白いものがちらちら舞っている。早々に開花した桜の花びらかと思ったが、それは雪の結晶だった。道端の桜の蕾が、心なしか震えているように見える。

開花への熱情をその内側に秘めながら、冷気から身を守るように小さく縮こまっている蕾は、何故か奏を連想させた。喬允の前で 項垂れて、『ごめん、喬兄…』と繰り返す奏の姿を。

「奏! 返事しろ! 奏っ」

深夜だったが構うものかと開き直り、喬允は声を張り上げて名前を呼んだ。そして車の行き交う大通りに出たところで、ぴたりと立ち止まった。

「奏……」

歩道橋の上で、一人ぽつんと立ち尽くす奏の姿が見える。奏は手すりに両手を置き、足下を往来する車の流れを一心に見つめていた。

喬允は駆け寄りたい衝動を何とか抑え、ゆっくりと、一段一段踏み締めるようにして上った。そして上りきったところで呼吸を整え、奏の名を呼ぶ。彼の周囲を取り巻く荒涼たる冷気ごと包み込むように、愛情込めて。

「奏、見つけたぞ」

白い吐息の向こうで、奏がびくっと身じろいだ。しかし顔は上げず、思い詰めた表情で下を向いたまま硬直する。喬允は一歩、また一歩と近づきながら、

「見ろよ、雪が降ってる。寒いだろ? 帰るぞ」

すると奏は顔を上げ、哀しい思い出を中醫生髮食療透かし見るように目み、

「ああ、雪だ。あの時も雪だった。俺の“裏切り”に怒って、喬兄が俺の許から去っていった日も……」

奏の目には、二度目の別れの光景がすでに見えているのか。あの日と同じく粉雪舞う中、喬允の広い背中が遠のき、やがて視界から消えてゆく光景が。

「そうだな。でもこれは春の雪だ。すぐに、舞い散る花びらに変わる」

奏の脳裏を支配する光景を打ち消すように、喬允は眼前に立って柔らかく微笑んだ。二人の口からふわりふわりとこぼれる白い吐息が融け合っては、消える。

「奏、帰ろう、一緒に。な?」